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「為替介入の資金調達の仕組み」

非不胎化の意味を理解するためには、為替介入の資金調達の仕組みを理解する必要がある。これについては日銀のサイトに説明があり、これを参考にして見てみることにする。

「日本銀行における外国為替市場介入事務の概要」 http://www.mof.go.jp/jouhou/kaikei/syokan/gaitame.htm

日本での為替介入は財務大臣の権限において実施されるとある。日本銀行はその際に財務大臣の代理人として、財務大臣の指示に基づいて為替介入の実務を遂行している。

新聞・ニュース等でしばしば使われる「日銀介入」という言葉は、やや誤解を招きやすい表現であるとわざわざ指摘している。ただし、最近では政府・日銀による介入と使われることも多くなっているが、いまだに日銀が自らの判断で実施しているとの誤解も一部にあるようだ。

今回、15日以降の介入は官邸などからの強い要請により、財務大臣が指示を出したと言われる。実務部隊となる日銀の金融市場局為替課は電子ブローキングシステム(EBS)などを使って民間金融機関に注文を出している。

そして、今回の議題となる為替介入に要する資金の調達についてだが、日本での為替介入はすべて政府の外国為替資金特別会計の資金を用いて行われていることに注意したい。日銀の勘定とかではなく政府の勘定において実施されている点を認識しておく必要がある。

外国為替資金特別会計とは政府が実施する外国為替等の売買(為替介入等)等の円滑化に資するため設けられているものである。今回のように、円売り・ドル買い介入の場合には、政府短期証券(為券)の発行により円資金を調達し、外国為替市場における為替介入によりこの円資金を売却しドルを購入する。通常、この代金の決済は二営業日後に行われる。

ここで為券について少し解説したい。政府が国庫や特別会計などの一時的な資金不足を補うために発行されているのが、FB(Financing Bills)と呼ばれる政府短期証券である。発行根拠法により財務省証券、食糧証券及び外国為替資金証券に分かれている。このうち外国為替資金証券が為券と呼ばれるものである。

政府短期証券(FB)及び割引短期国庫債券(TB)は2009年2月より「国庫短期証券(Treasury Discount Bills)」として統合発行されている。しかし、発行される毎にそれが、TBなのかそれても財務省証券、食糧証券及び外国為替資金証券なのかは区別されている。

これはたとえば下記のように財務省のサイトで公表されている国庫短期証券の入札発行などに表記されている。

国庫短期証券(第138回)の入札発行 http://www.mof.go.jp/jouhou/kokusai/tbill/tbillnyusatu/offer220916.htm

この中の発行根拠法律及びその条項がそうである。TDBの138回は下記内容となっている。

財政法(昭和22年法律第34号)第7条第1項、財政融資資金法(昭和26年法律第100号)第9条第1項並びに特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第83条第1項、第94条第2項、第95条第1項、第136条第1項及び第137条第1項

個別にはそれぞれの条項を読めばその区別がわかる。財政法第7条に基づくものは財務省証券、財政融資資金法第9条に基づくものは融通証券であり、特別会計に関する法律(平成19年法律第23号)第83条には「外国為替資金に属する現金に不足がある場合には、外国為替資金特別会計の負担において、一時借入金をし、融通証券を発行し、又は国庫余裕金を繰り替えて使用することができる。」とあることで、この融通証券が為券であることがわかる。

参考までに10年国債の発行などについても、同様に財務省の発表する入札発行を確認すれば、それが建設国債なのか赤字国債なのか、借換債もしくは財投債なのかがわかる。

ついでに、財政融資資金法の第9条二項をみると、「融通証券の限度額については、予算をもつて、国会の議決を経なければならない。」とあるが、外国為替資金証券は無制限な発行を防ぐため、毎年度の予算で発行残高の上限が規定されている。

これは2010年度予算で145兆円に設定されており、このうち発行済みの借り換え分104兆円と15日の介入相当額となる約2兆円を除くと、 残る39兆円が今年度の介入可能額となる計算となる。

ちなみに2003年には臨時措置として、政府と日本銀行は、外国為替市場での円売り介入に使用する円資金が不足する場合に、政府が外貨準備で保有している米国債券を日本銀行に売却して必要とする円資金を調達することができる契約を結んでいる。

さて、話を本題の為替介入による資金調達に戻したい。これまで見てきたように円売り・ドル買い介入の場合には、政府が政府短期証券(為券)を発行することにより円資金を調達する。この仕組みによれば為替介入は基本的に不胎化介入となる制度的な仕組みとなっている。

これについては「日本の外貨準備の政策分析」という早稲田大学の谷内満教授の論文を参考に見てみたい。

「日本の外貨準備の政策分析」http://www.jica.go.jp/jica-ri/publication/archives/jbic/report/review/pdf/36_04.pdf

1999年以前は、為券は日銀が主に引き受けていたが同年以降は、為券は公募で発行され市中消化されている。この仕組みのもとでは為替介入は常に不胎化介入となる。なぜなら、円売りドル買い買い介入の場合、まず為券が発行されるが、それによって民間銀行の為券保有が増加し、その購入資金の支払いのため銀行準備が減少する。外貨買い介入が行われると民間銀行の外貨資産が減少し、銀行準備が(先ほどの減少分と同額だけ)増加する。したがって、民間銀行の銀行準備は変化せず、マネタリーベースは不変となる。

ただし、2003-04年の大量のドル買い介入の際は、円資金の調達規模が大きすぎて市場での資金調達が追いつかず、一部が不胎化されず、不胎化されるまでタイムラグが生じた。上述のように、為券は1999年からは原則公募発行によっているが、介入を機動的に行うため、ドル買い介入をする際は一時的に日銀が為券を引受け、後日公募発行で市場から資金を調達し日銀が引き受けた為券を償却する。通常はこの期間はごく短期間だが、この時期の大量介入の際は、日銀への資金返済には時間がかかり、したがってその間不胎化が完全にはなされなかったことになる(谷内満教授の論文より)。

日銀による公債の引受けは、財政法により原則として禁止されているが、FBについては当該条項の適用を受けないと解されており、日銀法でも日銀がFBの引受けを行うことができる旨の条項が設けられている(日本銀行法第34条第4号3)。

ただし、FBの発行が1999年度以降、原則として市場における公募入札により発行する方式に改められ、この公募入札方式への移行後は、日銀がFBの引受けを行う場合は、政府からの要請に応じて例外的に行う臨時引受けと、日銀の業務運営上必要がある場合に自らが行う引受けに限られることとなった。

このうち、政府からの要請に応じて実施する臨時引受けには、市場における公募入札において募集残額等が生じた場合と、為替介入の実施や国庫資金繰りの予想と実績との乖離の発生などにより「予期せざる資金需要」が発生した場合に限定されている。また、臨時引受けを行った政府短期証券については、可及的速やかに償還を受ける扱いとなっている。このように、臨時引受けについては、中央銀行による政府向け信用のあり方の観点も踏まえ、一時的な流動性の供給となるような明確な「歯止め」が設けられている。 (以上、「日本銀行の対政府取引」についてより、http://www.boj.or.jp/type/exp/stat/exseifu01.htm)

非不胎化させるさせないの議論があるが、現在の日本の為替介入の仕組みでは、結果とすればこのように常に不胎化となる。ただし、不胎化されるまでタイムラグの間、日銀の当座預金残高がその分一時的積み上がる。為券を発行し資金返済がなされてももしその分が上乗せされたまま当座預金残高を維持するというような金融調節を日銀が行うならば、それは結果として非不胎化ということになろう。

ただし、現在のように金融政策で金利をターゲットにして、さらに当座預金残高の超過準備分には政策金利と同じ0.1%の補完金利が付いている。この状況下にあっては、介入資金を形式上当座預金残高に多少反映させたとしても緩和効果そのものは限定的なのであり、あくまでアナウンスメント効果を意識したものでしかない。
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by nihonkokusai | 2010-09-17 11:52 | 日銀 | Comments(2)
Commented by 宮地鉄工 at 2010-09-20 10:04 x
不胎化、非不胎化のわかりやすい説明ありがとうございます。19日の日経新聞には、政府も日銀に協力というような記事が載っていました。厳密には日銀は政府に協力することはありますが、政府がなぜ日銀に協力するのでしょうか? 中身を見ると、この非不胎化の内容が書かれていました。介入後の市中への円資金供給を吸収させないようにするとともに、為券の発行も1~2カ月をかけて行う用意があるというような内容でした。しかしこれは厳密には非不胎化ではありません。非不胎化を刷るのであれば、日銀に為券の全額引き受けを行わせるか、借入れ状態にしておくか、外為特会にある米国債を日銀に売却して、借入金と相殺させるか、しかないのではないでしょうか。また財務官僚や日銀のスタッフはそのところを十分理解しているはずですが、介入後に池田財務副大臣は、日銀に対して非不胎化介入を行うように要望するというようなおかしな内容のコメントをしていますが・・・・・・・・・
Commented by nihonkokusai at 2010-09-21 10:00
19日の日経新聞の記事に関しては別途、まとめてみました。日銀にしろ財務省にしろ非不胎化を積極的に行うという意識はないと思います。しかし、介入の効果を上げるためにも少しでも緩和効果を狙った動きをしていることを示す必要もあったのではないでしょうか。ただし、緩和効果を本格的に狙うとすれば日々の資金需給に紛れ込んでしまう非不胎化ではやや無理があります。政策金利そのものの引き下げなり、国債買入とセットの量的緩和策の再導入なりが必要となるのではないでしょうか。
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