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「長期金利はなぜ低位安定しているのか(その2)」

さて、白書では2008年度の財政収支悪化について、循環的要素、つまり景気悪化要因によるところが大きいが、それとともに景気対策などの裁量的財政政策による収支悪化も大きいとしている。2002年度以降の構造的基礎的財政赤字はGDP比で減少してきたものの、2008年度には、急速な景気悪化に対応するため、裁量的支出等が拡大し構造的財政赤字は再び拡大した。その上、2009年度はさらに急速な悪化が見込まれている。

財政赤字の拡大はいずれ長期金利の上昇圧力となるのは確かである。市場における国債需給の悪化懸念がその要因となろうが、国内に潤沢な「貯蓄」があれば、財政赤字のファイナンスに対する懸念が生じないことも考えられると白書は指摘している。

潤沢な国内貯蓄を有する国では、長期金利の動向が景気状況や財政状況に左右される程度は低い傾向にある。日本の場合も、国内の貯蓄超過の存在によって、財政状況が悪化しても長期金利が低く抑えられている面があると考えられる。しかしながら、今後さらに高齢化が進展すると、これまでのような貯蓄超過が続かない可能性も高い。すでに日本の貯蓄率が低下傾向にある点には注意が必要であり、長期金利の先行きについては当然ながら楽観することはできない。

興味深いことに白書では、日本の長期金利の低さの要因として、国債の国内保有比率の高さについては否定的な見方をしている。日本における国債の国内保有比率は9割を超え、5割程度のアメリカや6割程度の英国など欧米諸国に比べると高い。国内資金でそのほとんどが賄われていることで日本国債の価格は安定しているとの見方がある。しかし、国内の貯蓄超過と国債の国内保有比率の高さは連動し、必ずしも国内保有比率の高さそれ自体が長期金利を押下げているわけではないとも考えられる。

これについて、国債の国内保有比率と長期金利に明確な関係は見られない点を海外との比較で示している。例えば、ドイツやイタリアはアメリカよりも国債の国内保有比率が低いが、長期金利はアメリカよりも低い傾向にある。日本は他国よりも突出して国債の国内保有比率が高いが、過去の動きを見ても常に長期金利が最も低いとはいえないことも確かである。また、アメリカについては、国債の国内保有比率は50%程度から80%程度まで年によって変化しているが、国内保有比率が高い時期の方が長期金利は高い傾向さえ見られる。これは裏をかえせば、日本国債はその9割以上を国内資金で賄っているから必ずしも安全だとは言い切れないことを示している。

日本やドイツのような経常黒字国は他国に比べて長期金利が低い傾向にあり、潤沢な国内貯蓄が長期金利の抑制要因になっていることが示唆される。

長期金利は国債の需給にも当然ながら影響される。長期金利の抑制に重要なのは貯蓄という資金フローが潤沢にあることであり、発行済の国債を誰が保有しているかというストック面での保有構造とは直接的な関係が薄いとも理解できようと白書は指摘している。

結論とすれば、日本の長期金利の低位安定の最大の要因は、経済成長率と物価上昇率が低いことにある。つまりはデフレの状況下にあっては、長期金利そのものの上昇は考えづらい。

しかし、財政悪化により長期金利に財政リスクプレミアムが上乗せされる懸念があり、白書ではすでにそれが生じつつあるとの指摘である。それでも潤沢な国内貯蓄がある限りは長期金利の抑制要因ともなることで、現実の長期金利は低位安定を続けている。

この白書の分析では、国債の国内保有比率と長期金利に明確な関係は見られない点を指摘しているが、仮に国内資金が賄えなくなった場合には、日本の長期金利の上昇圧力になる可能性がある。日本と米国、さらにドイツ国債との利回り格差はかなり縮小してきてはいるが、まだ開きがある。海外投資家が日本国債の投資を行う際には、米債やドイツ連邦債と比較してある程度の利回りを求めてくるとみられ、それが日本の長期金利の上昇圧力になる可能性はある。

ただし、もし仮に日本国債が国内資金で賄えないということが、現実化するようなことがあれば、すでに国債市場では先を見越してのパニック的な売りが入り、長期金利が大幅に上昇している可能性もある。

確かに現状の日本の長期金利は経済白書の指摘のように低位安定し、それが大きく上昇することはファンダメンタルズなどから見ても考えにくい。しかし、いつまでも財政リスクプレミアムを抑えこむことも難しく、このまま低位安定し続けるとも言い切れないことも確かなのではなかろうか。
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by nihonkokusai | 2010-08-03 18:23 | 債券市場 | Comments(2)
Commented by keiko at 2010-08-04 08:30 x
銀行勤務の知人によれば、日本の銀行が所有する国債は、先物を売ってヘッジしているので、国債が値下がりしても損失は生じないとのこと。先物を売っているのであれば、先物を買っている日本の金融機関があるはずだから、個々の銀行は別として日本の金融機関全体としては損失を被るのではと反論したところ、日本国債の先物買い持ちしているのは海外のヘッジファンドだと説明されました。知人の説明は事実でしょうか?もし事実であれば、何故ヘッジファンドは日本国債の先物を買っているのですか?宜しくお願い致します。
Commented by nihonkokusai at 2010-08-04 11:08
 日本の銀行も保有国債すべてについて、先物等でフルヘッジしているわけではありません。ある程度の価格下落に備えた動きはするものの、今回のようにじりじり相場が上昇する局面では、ヘッジ売りした先物の損失が膨らみ、むしろヘッジ比率を引き下げることも考えられます。

 海外ヘッジファンドやCTAなどは、いろいろな投資手法があるため、一概には言えませんが、主に相場の流れにつこうとしています。このため、今回のような上昇相場の際には買いポジションを膨らませてきていることは想定されます。
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