「7月15日の日銀総裁記者会見より」
オペの頻度を月2回実施に戻すなど減らすことや、資金供給額を無制限ではなく上限を限定すること、金利そのものを引き上げるといった修正は今回加えられず、「状況が改善すれば打ち切る」といった出口を意識したような明確なメッセージは打ち出されなかった。
また、前回の企業金融支援特別オペの期間延長が2009年3月末から9月末と6か月間であったことで、今回も6か月の延長との見方もあったが、今回は12月末までと3か月の延長に止めた。
総裁は企業金融支援特別オペなどの延長の理由については下記のように述べている。
「企業からみますと、厳しい収益環境が続く中で、在庫調整が一巡した後の景気回復の足取りなどについてなお不確実な面が大きく、今後の資金調達環境に対する不安感を払拭できない状況にあるのだろうと推測しています。こうした情勢判断を踏まえて、企業金融の円滑化を引続き図っていく観点から、今回措置を延長することとしました」
「CP・社債市場の機能は着実に回復しつつあります。銀行貸出は、大企業向けを中心に高めの伸びが続いているほか、資金繰りや金融機関の貸出態度は、大企業・中小企業とも、方向としては幾分改善しています。以上のように、現状の評価としてなお厳しいということと、しかし、明らかに改善の方向に向かっていることの両方の動きが現在あるとみています。」
CP・社債市場の機能が回復しつつあり、資金繰りや金融機関の貸出態度の改善も認めるものの、景気回復に関しても不確実であり。企業にとり厳しい収益環境が続くことを考えれば、延長せざるを得なかったということであろう、
しかし、モンスターオペとも称される企業金融支援特別オペの副作用が出ていることも確かであり、その点について総裁は以下のように述べている。
「もっとも、最近では格付けの高いCPの発行金利が同期間の短期国債の発行金利を下回るなど、一部にやや行き過ぎた動きがみられることも認識しています。こうした状態が続けば、投資家の投資意欲が後退するなど、市場機能を阻害してしまうことになり、却ってCP市場の発展にとって望ましくない可能性があることは確かです。こうした行き過ぎの要因として、市場では、企業金融支援特別オペの効果が大きいのではないかという議論があることも承知しています。」
CPの金利が国庫短期証券の金利を下回るという「官民逆転現象」だけでなく、預金増という要因もあるが余剰資金を抱えた銀行が2年国債や5年国債へも買いの手を広げ、2年債利回りが0.2%台半ばまで低下していることも、モンスターオペによる影響のひとつとみられる。
「私どもとしては、今申し上げたことは十分に意識していますが、他方で、現状の企業金融の状況を考えますと、先程の二極化現象はまだ解消されていませんし、足許改善はしていますが先々の資金調達環境について、やはり不確実性が払拭できないという状況です。そういう意味で、先程申し上げた部分的な影響あるいはその副作用だけでなく、金融市場・企業金融全体の状況やこれに与える影響を踏まえて判断していく必要があると考えています。」
副作用も認識しているものの、現状の企業金融の状況を考えるとそれを停止してしまうには時期尚早でもあり、なかなか難しい判断ともなっている。そして、一部に出ていた6か月の延長観測に関しては、総裁は次のように述べている。
「一方、今回は6か月ではなく3か月の延長としたことについてですが、足許改善傾向が続いており、この後もこの傾向が続くと判断していることを踏まえ、3か月後にもう1回経済金融情勢をしっかり点検することにしました。今後、情勢が一段と改善していけば、新たな期限である年末には各種時限措置の終了または見直しを行うことが適当だと考えております。」
ここで総裁ははっきりと、情勢が一段と改善していけば、新たな期限である年末には各種時限措置の終了または見直しを行うことを指摘している。これは出口を意識した発言というよりも、状況変化に対応するというある意味常識的な発言であろう。このため情勢によっては延長の可能性についても下記のように言及している。
「しかし一方で、今回の中間評価でも指摘したように、先行きの金融経済情勢については不確実性が高いとみています。従って、情勢が十分改善せず、それが必要と判断される場合には時限措置を再延長することになります。」
そして、なぜ9月からの延長を8月の会合ではなく早めに決定したのかについては、下記のように総裁は述べていた。ただし、これについては8月の決定会合では衆院選も近づき、政治を意識しての延長と取られることを避けたためといった見方も市場ではあったようである。
「企業金融を巡る環境は改善の方向にありますが、しかし現在でも、なお厳しいという評価をしているわけです。なお厳しいという判断をしている以上、私どもとしても、市場からみて不確実な要因である各種の措置をどのように運営するか検討し、その対応方針を早めに出したほうが良いということで今回合意に至ったものです。」