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日銀の長期金利のターゲットの範囲とは」

 日銀が「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を決定した9月21日に長期金利は一時プラスに転じてプラス0.005%に上昇した。しかし、その後は買いが入り28日にはマイナス0.090%とマイナス0.1%近くまで低下した。

 長短金利操作付き量的・質的金融緩和の柱のひとつイールドカーブ・コントロールとは、短期金利と長期金利にそれぞれ目標値を設定し、その目標値に誘導するものとなる。このうち短期金利は、日銀当座預金のうち政策金利残高に適用されるマイナス0.1%となり、長期金利については10年国債金利で概ね現状程度(ゼロ%程度)としている。

 日銀は短期金利は操作できても、長期金利については市場が決めるものとの見方をしており、今回の長期金利の目標値についても厳格には操作はできないとのスタンスを取っている。ただし、国債買入を柔軟に行うことである程度イールドカーブの修正は可能との認識とみられる。

 日銀は長期金利が上昇した場合などには例えば10年金利、20年金利を対象とした指値オペを実施する用意があるとしている。固定利回り方式による国債買入の場合には、買入予定総額に上限を設定しないことがあるとしている。つまり長期金利が大きく上昇するような場合には、それを日銀は無制限の国債買入で押さえ込むことも予想される。長期金利が想定以上に低下した際には、上記のような歯止めは持っていない。

 日銀は長期金利は目標に据えたものの、完全にコントロールできるものではないとしており、これはつまり今回の長期金利の誘導目標のゼロ%というのはかなりの幅を持ったものといえる。それがどの程度の幅であるのかははっきり示されてはいないが、すでに長期金利がマイナス0.1%近くに低下している以上、この水準はまだ許容圏内という認識になろうか。

 ただし、28日に10年国債の利回りがマイナス0.090%に低下した際、日本相互証券の画面にはマイナス0.095%に100億円が4本を含め都合600億円ものまとまった売りが入ったそうである。ここにきて流動性が低下したこともあり、600億円という売りは異常に大きいものであった。これがどれだけ日銀の意図を意識したものかはわからないが、かなり意識された売り物となっていた可能性がある。

 ただし、いずれにしてもあまり具体的な誘導目標は日銀も持ってはいないのではなかろうか。29日の日経新聞の経済教室で、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の概要を策定した中心人物のひとりとみられる日銀の内田企画局長は、「程度」で許容される長期金利の変動幅について「あまり広いと政策目的を実現できないし、あまり狭いと市場機能への影響が大きいので、実際の市場調節を通じて適切な「相場観」を作っていければと思っている」としている。28日の10年国債の動向をみる限り、いまのところ下限はマイナス0.1%程度に置いている可能性がある。上限はプラス0.1%あたりとの見方もあるが、せいぜいゼロ%あたりとの見方も出ている。

 足元の金利は短期金利なので日銀の操作範疇であるが、長期金利については直接誘導するというよりも、超長期債の利回りの居所次第の面もある。つまり短期金利と超長期債の利回りがある程度のターゲットになり、そのカーブを結ぶ途中の長期金利の居所が決まるような形となる可能性もある。その意味では30日に発表される「当面の長期国債買入れの運営について」での超長期債の買入の動向が焦点になってくるものと予想される。

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# by nihonkokusai | 2016-09-29 09:53 | 日銀 | Trackback | Comments(0)

日銀総裁の発言の矛盾点

 9月21日の黒田日銀総裁の会見内容と26日の黒田総裁の講演要旨が日銀のサイトにアップされた。ここから黒田日銀総裁の発言内容について確認してみたい。

 イールドカーブ・コントロールに関して、「「総括的な検証」で示した通り、「量的・質的金融緩和」は、経済・物価の好転をもたらし、その結果、日本経済は、物価の持続的な下落という意味でのデフレではなくなりました。その主たるメカニズムは、実質金利低下の効果です。これを長短金利の操作によって追求する「イールドカーブ・コントロール」を、新たな政策枠組みの中心に据えることとしました。」としている(黒田総裁会見より)。

 消費者物価指数の前年比マイナスが続く状態で「デフレではない」と主張することに矛盾はないのか。「デフレではない」とするのであれば、出口政策に何故転じないのか。実質金利の低下の効果を長短金利の操作によって追求することがどのようにしたらできるのか、などの疑問が浮かび上がる。

 「イールドカーブ・コントロールを中心とする新しい枠組みでは、マネタリーベースや国債保有残高の増加ペースを操作目標とする従来の枠組みに比べて、経済・物価・金融情勢の変化に応じてより柔軟に対応することが可能です。結果として、政策の持続性も高まるものと考えています。」(黒田総裁会見より)

 なぜ政策目標をこのタイミングで変更したのかといえば、最後の「政策の持続性」が意図されたことは確かであろう。結局、量と質で勝負できなかったので、昔の金利のスタイルに戻した格好となった。

 「次に、「オーバーシュート型コミットメント」について説明します。日本銀行は、生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するという新しいコミットメントを導入しました。」(黒田総裁会見より)

 ここで注意すべきところは「生鮮食品を除く消費者物価指数の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで」というところで、何気に物価目標をこれまでの総合から、いわゆるベンチマークのコア指数に変更している。もともと日銀の展望レポートでの物価の予想数字もコアであったことでコアに変更したのであろうが唐突な変更でもあった。

 「金融政策には効果が現れるまでにラグがあることを踏まえると、実際に 2%を超えるまで金融緩和を続ける、というのは極めて強いコミットメントです。」(黒田総裁会見より)

 さてここで26日の総裁の講演内容を確認すると興味深い指摘がある。

 「当初「量的・質的金融緩和」は想定通りあるいは想定以上に大きな効果を発揮しました。消費者物価は2014年4月には1.5%まで上昇し、予想物価上昇率も明確に改善しました。」(黒田総裁の講演要旨より)

 消費者物価指数は異次元緩和を導入した2013年4月あたりをボトムに前年比はプラスに転じ、2014年4月には1.5%まで上昇した。金融政策には効果が現れるまでに「タイムラグがある」としながら、まるで即時効果があったような指摘に矛盾がなかろうか。

 消費増税が開始される2014年4月までの物価の上昇の要因は、欧州の信用不安の後退にともなうリスクオフの巻き戻しによる円安株高、さらに消費増税に向けての駆け込み需要と便乗値上げの動きなどが重なったものではなかったろうか。このあたりの分析は本来日銀が最も得意としているところだけに、このタイミングの物価上昇を無理矢理に異次元緩和の成果とするのは、その後の物価の落ち込み理由の分析を含め、日銀の説明にはかなり無理が生じることになる。

 「この間の経験で分かったことは、わが国における予想物価上昇率の形成は、過去の実績に引きずられる傾向が強いということです。」(黒田総裁の講演要旨より)

 これについてはいろいろと解釈も出てこようが、これで仮に物価の低迷を説明するとなれば、異次元緩和でもそのように予想の引き上げはできなかったことになる。今後についても足元の物価が前年比マイナスの状態となっている以上、「フォワード・ルッキングな予想形成」を一段と強化することは、かなり困難ということにもならないであろうか。

 「マイナス金利導入後はさらに低下し、特に長めの年限の金利低下が顕著です。このマイナス金利と国債買入れを適切に組み合わせれば、2%の「物価安定の目標」の実現のために最も適切と考えられるイールドカーブの形成を促していくことができると判断しました。」(黒田総裁の講演要旨より)

 これが今回の最大の矛盾点というか、良くわからないところである。マイナス金利導入後の長期金利の急低下を成果とするのであれば、何故その目標値をマイナスではなくゼロとしたのか。そもそもイールドカーブの形成がどのように物価に働きかけるのか。日銀が動かせるのは金利である以上、金利を操作したいのはわかるが、そこから物価にどのように波及するのか、その波及経路が明確にされていない。

 「貸出金利は、厳しい競争環境の中でトレンドとして低下してきましたが、マイナス金利の導入によって低下幅が大きくなっています。また、長期金利や超長期金利の過度な低下は、保険や年金などの運用利回りを低下させるほか、企業における退職給付債務の増加などにもつながっています。こうした現象が、直接的にマクロ経済に及ぼす影響はそれほど大きくないと考えられますが、将来における広い意味での金融機能の持続性に対する不安感をもたらし、マインド面などを通じて経済活動に悪影響を及ぼす可能性もあります。」

 今回のイールドカーブ・コントロールの目的はここにあったと見ざるを得ない。マイナス金利と低下し過ぎた国債利回りにより、国内の金融機関は悪影響を受けた。さらに国債市場の機能低下も指摘されている。これはイールドカーブをスティープニングさせることで少しでも解消に向かうことが期待されることになる。今回の日銀の政策効果はさておき、あまりに国債の利回りに低下圧力を加えてしまったことで、それにブレーキを掛けたということになり、それにより政策の持続性も高めることが目的となろう。つまりそれで物価がより上がりやすくなるわけではないことで、説明に矛盾が生じているように思われる。

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# by nihonkokusai | 2016-09-28 10:10 | 日銀 | Trackback | Comments(0)

6月末時点での日本国債の保有者

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 日銀は9月26日に資金循環統計(4~6月期速報値)を発表した。これによると個人の金融資産は6月末時点で約1746兆円となり、3月末の約1752兆円から減少した。個人の金融資産の内訳は「現金・預金」が前年比1.2%増の約920兆円、「株式等」が16.6%減の約144兆円、「投資信託」は11.7%減の約87兆円となっていた。英国のEU離脱観測によるリスク回避の動きなどにより円高株安の影響を受けたとみられる。

 この資金循環統計を基に国債(短期債除く)の保有者別の内訳を算出してみた。残高トップの日銀の国債保有残高は344兆8685億円となり、34.9%のシェアとなった。前期比(確定値)からは27兆7499億円の増加。残高2位の保険・年金基金は251兆73億円(25.4%)、6兆4714億円増。残高3位は預金取扱機関(都銀や地銀など)で226兆5625億円(22.9%)、6兆3594億円減。前回の5位から4位に上がったのが海外投資家で54兆6763億円(5.5%)、3兆7258億円増。5位が公的年金の52兆3919億円(5.3%)、23億円減。6位が家計の13兆9796億円(1.4%)、2240億円増。その他が43兆9514億円(4.5%)、4427億円減となっていた。

 2016年3月末(確報値)に比べ、国債(短期債除く)の残高は約32兆円増加し、約987兆円となった。このうち日銀が約345兆円と35%を占め、民間の保険・年金が約252兆円で25%、次が銀行など民間預金取扱機関の約227兆円の23%となった。

 3月末(確報値)に比べて大きく増加したのは、大量に国債を買い入れている日銀で約28兆円の増加となった。次いで保険・年金の約6兆円増となっていた。3月末に比べて大きく減少したのが国内銀行の約4.9兆円減と中小企業金融機関等(ゆうちょ銀行含む)の約1.6兆円減となり、他の業態は概ね増加となっているところが多かった。

 日銀は1月29日にマイナス金利政策を導入し、2月9日には10年債利回りもマイナスとなり、7月にはマイナス0.3%まで低下していた。この期間(4月から6月)も国債は買い進まれていたが、日銀が淡々と買入オペで国債を購入し続けるなか、生保などはプラス利回りの国債を中心に購入し続けていたとみられる。それに対して銀行などはマイナス利回りでの運用は難しくなり、国債の残高を減らしていたものとみられる。

 短期債を含めた国債全体の数字でみると残高は約1105兆円となり、日銀が約398兆円で36.0%のシェアとなっていた。そして海外勢の残高は約111兆円と短期債を含めると国債全体の10.0%のシェアとなっていた。

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# by nihonkokusai | 2016-09-27 10:00 | 国債 | Trackback | Comments(0)

日銀の枠組み変更のポイントは消えたマネタリーベース目標値にあり

 日銀は9月21日の金融政策決定会合において、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」と名付けられた金融政策の新しい枠組みの導入を決めた。これは長短金利の操作を行う「イールドカーブ・コントロール」と消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで資金供給拡大を継続する「オーバーシュート型コミットメント」が柱となる。

 今回の枠組みの変更により、重要な数字がまるでなかったもののように消え去っている。ここに今回の日銀の枠組み修正の目的が浮かび上がる。

 日銀が異次元緩和と呼ばれた量的・質的緩和政策を2013年4月に決定した際、「量的な金融緩和を推進する観点から、金融市場調節の操作目標を、無担保コールレート(オーバーナイト物)からマネタリーベースに変更」するとした。このときから日銀の金融政策の操作目標が「マネタリーベース」となっていた(もし試験に出たらマネタリーベース書かないと不正解)。ところがである。今回の日銀の枠組み変更には「マネタリーベースの目標値」がなくなっているのである。その代わりに今回からは「金融市場調節方針は、長短金利の操作についての方針を示すこととする」とあり、これから日銀の操作目標を問われる問題が出たら長短金利となろう。さらにマネタリーベースについては今回以下の指摘もあった。

 「マネタリーベースの残高は、上記イールドカーブ・コントロールのもとで短期的には変動しうるが、消費者物価指数(除く生鮮食品)の前年比上昇率の実績値が安定的に2%を超えるまで、拡大方針を継続する。この方針により、あと1年強で、マネタリーベースの対名目GDP比率は100%(約500兆円)を超える見込みである(現在、日本は約80%、米国・ユーロエリアは約20%)」

 日銀は今回の修正でマネタリーベースの目標数値を示して、そこまで増やしていくという政策を軌道修正した。マネタリーベースの拡大方針を継続するとしながら、短期的には変動しうるとし、絶対に増やすとは言っていない。さらにマネタリーベースの対名目GDP比率は100%を超えてしまうリスクまでわざわざ表記している。

 いいやそんなことはない、今回日銀は、「フォワード・ルッキングな期待形成」を強めるため、オーバーシュート型コミットメントを採用しているのではないか、との反論もあろう。しかし物価目標を達成するまでマネタリーベースの拡大方針を継続すると約束するとしながら具体的な数字は外している。オーバーシュート型コミットメントは、2年で2%の物価目標達成ができなかったため、その具体的な期間を明記せずにするために行った修正との見方ができる。つまりマネタリーベースは減らさなければ良いとも言えるものである。決してオーバーシュート型などではないのではなかろうか。このマネタリーベースの拡大方針の継続とオーバーシュート型コミットメントの採用は前向きの姿勢を示す意味とともに、いわゆるリフレ派の政策委員を納得させるための手段でもあったようにも思われる。

 今回日銀は長期国債の買入れについて、その買入れ額については概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ、金利操作方針を実現するよう運営するとした。買入対象については引き続き幅広い銘柄とし、平均残存期間の定めは廃止するとしている。ここにも大きな重要な修正が隠されていた。

 これが何を意味するのか。「平均残存期間の定めは廃止する」ことで買い入れる国債についてはかなりフレキシブルな対応が可能となる。2013年4月の異次元緩和では「長期国債買入れの平均残存期間を2倍以上に延長する」ことも大きなポイントとなっていた。以前の日銀が中短期債ばかり買い入れており、それでは効果がないとのリフレ派の主張を取り入れた政策であったが、そこから距離を置くことになる。

 さらに国債の買入れ額については「概ね現状程度の買入れペース(保有残高の増加額年間約80兆円)をめどとしつつ」とした。マネタリーベースの増加目標が今回外されていることにより、国債買入れの額についてもあくまで「めど」としたことで、概ね裁量の余地が広がることになる。年限の縛りもなくしたことで、これにはあと2年程度とされる国債買入の限界時期を延ばそうとの意図があるのではなかろうか。

 もうひとつの注目ポイントがマイナス金利政策の修正にある。今回日銀は今年1月に決定した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」から「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」とマイナス金利政策という表現を変えている。短期金利はマイナス0.1%という金利に置かれているため操作目標には残っている。しかし、この短期金利の操作というより、日銀はイールドカーブ・コントロールとの表現に変えているように、長期金利のゼロ%を意識したものと言えよう。追加緩和となれば、長短金利のどちらかか、もしくは両方の目標値を下げることも手段としては予想されるが、これはよほどのことがない限りは行わないはなかろうか。今回のマイナス金利をタイトルから外したのは、金融機関などによる批判を受けてのものとみて良いのではないか。その意味で今後のマイナス金利の深掘りの可能性は低下したとみている。

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# by nihonkokusai | 2016-09-25 12:35 | 日銀 | Trackback | Comments(0)

日銀が長期金利を目標に据えた理由

 日銀が何故にこれまで「なるべく市場メカニズムに委ねることが望ましい」としてきた長期金利を「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」によって金融政策の目標に据えたのか。

 これにはいろいろと複雑な要因が絡んでいると思われる。これまで日銀は大胆な国債買入などにより量の拡大で、人々の物価予想に影響を与えて、物価目標を達成しようとした。しかし、今回発表された「総括的な検証」で示されたように原油安など外部要因によって目標が達成できなかったとした。しかし、現実には金融政策の量によって物価を動かすことにそもそも無理があった。

 その量についても限界が見えてきた。金融機関の保有国債を引きはがして日銀が買い入れるにも限界がある。そこで取った手段がマイナス金利政策であったが、長期金利までもがマイナスとなってしまい、国債での資金運用が難しくなった。日銀の金融政策に対する金融機関からの批判的な声が強まった。さらに危惧されたのは国債の流動性の低下であった。これらを解消するために取られた手段が今回の長期金利を政策目標に据えることであったと思われる。

 この一番の目的は日銀の金融政策の目標を量から金利に変えることであった。これにより、量つまりマネタリーベース目標による制約を受けることがなくなり、国債の買い入れについて柔軟な対応が可能となった。さらに日銀が長期金利をも政策目標に置くとの思惑だけで長期金利を上昇させることとなり、それ以上に超長期と呼ばれる20年を超える国債の利回りが大きく上昇することとなった。これで金融機関の資産運用で国債が活用できるようになる。長短金利差を大きくすることで利ざやを稼ぐことができるため、金融機関にとってもこれは良い環境となる。

 今回の「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」の目的は、このような金融機関や国債市場への配慮、さらには量に縛られた政策から脱することで、大胆な金融緩和政策をもう少し長く続けさせようとしたものである。これはつまり今後の追加緩和はよほどのことがない限り難しくなるとも言える。

 ただし、金融政策で動かせないとした長期金利を本当に動かせるのか。国債の利回りは景気や物価、需給バランスなどで動くが、何かしらのきっかけで長期金利が大きく変動した際に日銀は対処できるのか、といった疑問もある。もし日銀が誘導できるとしたならばそれはそれで国債が官製相場となってしまうリスクもあり、国債市場の機能がむしろ失われるリスクも存在するのである。

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# by nihonkokusai | 2016-09-24 11:05 | 日銀 | Trackback | Comments(0)

メガバンクの国債売買高が大きく落ち込む

 9月20日に日本証券業協会は8月の公社債投資家別売買高を発表した。公社債投資家別売買状況のデータは、全体の数字と短期債の数字となっているため、短期債を除く債券のデータについて全体から短期債を引いた。ここには国債入札で購入した分や日銀の国債買入分は入っていない。

8月の公社債投資家別差し引き売買高 注意、マイナスが買い越し、単位・億円
()内は国債の投資家別売買高の超長期・長期・中期別

都市銀行-5354(-3637、730、-2074)
地方銀行 1057(-287、1964、265)
信託銀行-256(-1177、-2413、2094)
農林系金融機関-4167(-2416、42、-150)
第二地銀協加盟行-363(-60、-50、45)
信用金庫 3138(-89、121、3186)
その他金融機関-3683(-283、-46、-3214)
生保・損保-2761(-2808、123、647)
投資信託 21(381、-370、471)
官公庁共済組合-46(-99、44、0)
事業法人-76(38、10、2)
その他法人-754(-496、31、9)
外国人-16838(-1108、-5390、-9702)
個人 266(1、32、6)
その他 19172(9845、6303、7208)
債券ディーラー 471(91、191、158)

 都銀は7月に続いて買い越しとなった。特に超長期債を3637億円の買い越しとなり、業態別では超長期を最も買い越した格好となった。地銀は7月の買い越しから売り越しに転じた。海外投資家は中期ゾーンを主体に引き続き大幅買い越しとなった。海外投資家の買い越しは26か月連続となる。

 7月には欧米の長期金利が過去最低を記録し、日本の10年債利回りも7月8日にマイナス0.3%をつけた。20年債利回りも7月6日にマイナス0.005%をつけてマイナスとなったが、ここからこの超長期債主体に売り込まれた。20年までの国債利回りがマイナスとなったところで超長期債を売却した投資家もいたようで、ここからの利回り低下は考えられないとの見方も強まっていた。

 7月27日に154円台まで上昇していた債券先物は7月29日の日銀金融政策決定会合をきっかけに急落することになる。日銀は「金融政策の強化」としてETFの買入を現行の3.3兆円から6兆円とすることなどを決定したが、一部期待のあったマイナス金利の深掘りや国債買入の増加などは見送られた。ヘリコプターマネーへの期待などもあったことで、この決定会合結果を受けて債券相場は調整局面入りした。

 8月2日の10年国債入札が低調な結果となったことで債券先物は150円66銭まで売られたが、この150円66銭が債券先物中心限月の直近安値となり、それ以降は先物に関しては151円台中心のレンジ相場が続くことになる。ただし、超長期債はじりじりと売り込まれ、20年債利回りは8月末にかけて0.3%台に上昇していた。この超長期債を主体とした下落局面で都銀、農林系金融機関、生保などは淡々と押し目買いを入れていたようである。

 国債の投資家別売買高(一覧)での合計の国債売買高でみてみると2016年5月分の国債売買高は162兆1940億円となり、統計のある2004年4月以降最低となっていた。6月は201兆7760億円と回復し、7月は183兆9885億円と6月からは減少した。そして8月は189兆9590億円と7月に比べて小幅増加した。

 ただし、個別でみると都銀の国債売買高は8月は1兆7326億円にとどまりデータがある過去最低と2004年4月からでは過去最低となった。ピークは日銀が国債の買い入れ対象の国債を残存1年以上3年以下に延長した2012年4月の78兆4276億円となっていたが、そこからいったん10兆円割れまで落ち込んだが、日銀が量的・質的緩和の拡大を決定した2014年10月に40兆円台を回復。しかし、そこから再び売買高が落ち込み、特に今年に入り日銀のマイナス金利政策の影響もあって、1兆円台にまで落ち込んだ。21日に日銀が金融政策の枠組みを修正し、「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入したひとつの要因として、国債市場のメインプレーヤーであったはずの都銀の国債売買高の落ち込みも影響していたのではないかと思われる。

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# by nihonkokusai | 2016-09-24 10:44 | 債券市場 | Trackback | Comments(0)

日銀の検証の目的に金融機関との関係改善も

 日銀は4月と10月に金融システムレポートを出しているが、このなかに「金利上昇に伴う円債時価の変動」という表がある。ここに金利が上昇した際の金融機関の保有国債における評価上の損失額の推計値が示されている。

 直近の金融システムレポートによると金利が1%上昇した際の金融機関全体の損失推定額は7.1兆円となっている。ただし、この推計にあたっては金利のパラレルシフトを想定している。つまり、短いところから超長期の国債まで全体が1%上昇するという前提となっている。

 7月6日に20年国債の利回りはマイナス0.005%をつけて初めてマイナスを記録した。しかし、ここから今度は超長期の金利は上昇し始め、9月12日に0.475%と0.5%に接近した。7月6日から0.5%もの金利上昇となっていたが、特にこれは問題視されてはいない。もちろん長期債が買い進まれるなかにあって、運用難のなか超長期債を購入し、評価損を抱えてしまった金融機関もいたとみられるが、それよりもこの金利の上昇と言うか、復活を喜んでいる金融機関の方が多かったのではなかろうか。

 黒田総裁はマイナス金利の導入に際してはこれまでの収益の蓄積があることや、マイナス金利を三層構造にするなどして「マイナス金利は金融機関の収益に悪影響与えていない」という主張をしていた。ところが9月5日の講演で黒田総裁はマイナス金利政策について「金融機関の収益に与える影響が相対的に大きい」と述べ、コストつまりは副作用について踏み込んだ発言をしていた。

 マイナス金利政策に対しては今年4月に三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長が、銀行にとっては「短期的効果は明らかにネガティブだ」と述べていた。さらに三菱東京UFJ銀行は、国債市場特別参加者」(プライマリー・ディーラー)の資格を国に返上したが、これも日銀のマイナス金利を含めた国債政策による影響との見方もできる。

 これがいったい何を意味しているのか。事はかなり重大であると言わざるを得ない。日銀の金融政策は当然ながら金融機関のために行っているものではないが、金融市場つまりは金融機関を通じて効果を発揮しようとするものである。日銀の金融政策は当たり前だが金融機関なしには成り立たない。

 これまでの日銀の金融政策についてはメガバンクがそれを支援するような格好となっていた。日銀の量的・質的緩和についてもメガバンクは国債残高を落とし、それにより日銀が国債を買い入れる余地を作っていたともいえる。しかし、マイナス金利の導入で日銀と大手金融機関に亀裂が走ってしまった。

 今回の日銀の総括的な検証の目的のひとつは、この金融機関との関係改善にあるのではないかとも思われる。大胆な緩和策の限界が意識されるなか、金融機関との関係改善を図るためのひとつの手段として国債のイールドカーブの修正が意識されたのではないかと思われるのである。

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# by nihonkokusai | 2016-09-21 09:48 | 日銀 | Trackback | Comments(0)

全銀協会長が日銀のマイナス金利政策を牽制

 全国銀行協会の國部毅会長は15日の記者会見で日銀が行う金融緩和策の総括的な検証に関連して、「マイナス金利政策は現状では効果が出ていない」としてマイナス金利の幅の拡大には極めて慎重であるべきだという考えを示した。

 國部会長は「特にマイナス金利政策を検証することが重要だ。金融の現場から見れば、住宅ローン金利などは低下しているが、前向きな投資は増えておらず、現状では効果が出ていない」とし、その上で、國部会長は「マイナス金利の深堀りによってさらに金利が下がれば、銀行の収益が圧迫されて金融仲介機能が低下し、実体経済にも悪影響を及ぼしかねない」と述べた(NHKのニュースより引用)。

 今回の日銀の総括的な検証にあたっては、市場に対してはサプライズを止めることで市場との対話を進める姿勢に転じたように見受けられる。金融機関に対してもイールドカーブのスティープ化により長短金利差の拡大を促すことで、金融機関の収益にも配慮する姿勢を示すことで、マイナス金利の深掘りについても理解を得ようとしているように思われる。

 ところが肝心の銀行業界の國部毅会長(三井住友銀行頭取)から、マイナス金利の深掘りについて釘を刺すような発言が、このタイミングで出てきた。

 日銀の総括的な検証の目的は、いうまでもなく物価目標が達成できていない理由を洗い出すとともに、その上で追加緩和手段を模索することになると思われる。

 しかし、これには大きな矛盾が存在する。結論から言えばリフレ政策を取り入れた大胆な金融緩和策で物価を動かすことはできなかったことは誰の目にも明らかである。日銀としてはその理由を金融緩和の波及経路の阻害要因に求め、それを基に緩和手段に間違いはなかったとして、あらたな追加緩和手段を提示することが総括の目的とみられるが、これもかなり無理がある。

 本来であれば、大胆な緩和手段そのものに対する大胆な検証が必要なはずであるが、負けを認めるわけにはいかない状況下、日銀としては撤退ではなく転進の方向を探ることも目的になっているように思われる。

 量・質・金利の三次元でさらに前進するように見せるための手段としては、特に今年に入り執行部が検討し決定会合で導入されたマイナス金利政策を推し進めざるを得なかった面があろう。そこで苦肉の策として出されたものがイールドカーブのスティープ化とマイナス金利の深掘りのセットであったと予想される。

 これについては金融機関との対話がそれなりに進められていたのではないかとみていたが、どうやらそうでもなかったようである。少なくとも三井住友銀行頭取でもある全国銀行協会の國部毅会長とは対話が出来ていなかったように見受けられる。

 日銀がマイナス金利の深掘りをせざるをえないのであれば、マクロ加算分を増やすなり、階層を増やすとか、銀行にとってのセーフティーネットを増やして極力悪影響が出ないよう工夫してくるのではと予想していたが、いまのところそのような観測も出ていない。

 仮に日銀執行部がセーフティーネットを考えていたとしても國部毅会長には伝わっていなかったのか、そもそも三層方式を変更するつもりもなかったのか、修正したとしても銀行の収益はいずれにしても悪化するとの見通しを全国銀行協会がしていたのか、このあたりはわからない。

 今回の國部会長の発言は、21日の総括とそれによる追加緩和手段の模索に対して、少なからず影響を与える可能性がある。いずれにしても日銀にとっては無理を通せば道理が引っ込むような状況にあることも代わりはない。

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# by nihonkokusai | 2016-09-18 10:31 | 日銀 | Trackback | Comments(0)

日銀の総括的な検証並びにそれを受けての追加緩和策の予想

 日銀は9月20、21日の金融政策決定会合で「総括的な検証」を公表する。市場ではこの総括的な検証の内容と、検証を受けて何かしらの政策に対する修正があるのか、さらには今後の追加緩和を行う際にどのような手段を講じることができるかについて注目している。

 総括的な検証を行うようにと日銀の企画部門を中心とした執行部に黒田総裁から指示が出されたのが7月29日の金融政策決定会合である。7月28、29日の金融政策決定会合の公表文では以下のように記されていた。

 「海外経済・国際金融市場を巡る不透明感などを背景に、物価見通しに関する不確実性が高まっている。こうした状況を踏まえ、2%の「物価安定の目標」をできるだけ早期に実現する観点から、次回の金融政策決定会合において、「量的・質的金融緩和」・「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」のもとでの経済・物価動向や政策効果について総括的な検証を行うこととし、議長はその準備を執行部に指示した。」

 このときの決定会合後の総裁会見で黒田総裁は、「量・質・金利の3つの次元で緩和が可能であるということは先程申し上げた通りで、今、限界がきていることは全くないと思います」とコメントしていたことからもわかるとおり、これは市場の一部で指摘されていたような国債の買い入れの縮小、いわゆるテーパリングや評判の良くなかったマイナス金利政策の解除といった類いのものではないと予想された。

 ただし、「総括的な検証」の内容については8月の段階では日銀執行部で取りまとめている最中であったとみられ、その内容が示されたのが9月5日のきさらぎ会での黒田総裁の講演となった。その講演のタイトルはそのものずばりの「金融緩和政策の「総括的な検証」となっていたのである。

 この講演のなかでも「あくまで2%の早期実現のために行う検証ですから、市場の一部でいわれているような緩和の縮小という方向の議論ではありません。」と総裁はわざわざ強調していた。

 総括そのものについては、いわゆるリフレ政策によって物価が上がらなかったという事実に対するある意味言い訳にならざるを得ないとみられる。実際に黒田総裁は、2%の実現を阻害した要因として、原油価格の下落、消費税率の引き上げ後の個人消費を中心とする需要の弱さ、新興国経済の減速やそのもとでの国際金融市場の不安定な動きなどすべて外部要因を指摘した。国債を大量に買い入れてマネタリーベースを思い切って増やせば物価は自ずと上がるといったはずではなかったのかと疑問を投げかけたいが、あくまでここは理由とされるものを羅列してくるであろうと予想される。

 「予想物価上昇率」が政策効果によってどのように押し上げられ、また阻害要因によってどのような影響を受けたかとの説明もあったが、これも現実世界で予想物価を図るものが存在していない以上、机上の空論に近いと私は思っている。少なくともいまの日本の債券市場において物価連動国債のブレーク・イーブン・インフレ率などから予想物価を推定するのは現実的ではない。

 そして今回の検証のポイントとなりそうなのが、「マイナス金利の効果と影響」という部分である。

 「マイナス金利政策は、国債買入れとの組み合わせによって、イールドカーブ全体にわたって国債金利の一段の低下に大きな効果をもたらしました。このことは、両者を適切に組み合わせることによって、日本銀行がイールドカーブ全体に影響を与えることができることを示唆しています。この枠組みはきわめて強力であることがはっきりしました。」  

 日銀の金融政策で短期金利は操作できても、市場で形成される長期金利については操作できないというのがこれまでの日銀の説明でもあった。ところがどうやら日銀は長期金利を含めてのイールドカーブ全体を操作できるかのような説明となっていた。さらに効果については下記のような説明もあった。

 「これまでのところ、マイナス金利政策は、企業や家計の資金調達コストの低下にしっかりとつながっていることが窺えます」

 「金融機関の貸出態度は引き続き積極的であり、マイナス金利による収益圧迫によって金融仲介機能がかえって悪化するというような事態にはなっていません。」

 ただし、それでも懸念材料があることを総裁は示している。

 「もっとも、これらの点については、留意すべき事項が2つあります。ひとつは、あくまで、「これまでのところ」であって、この先、貸出等の金利の低下にどの程度波及するかは、一概にはいえないということです。そして第2に、預金金利がそれほど低下していない中にあって、貸出金利が大きく低下したということは、それが金融機関の収益を圧縮する形で実現しているということです。」

 ここが大きなポイントとなりうる。つまり今回の検証は2%の物価目標が達成できない理由を羅列するとともに、評判の悪いマイナス金利政策についての検証を加えてその修正を図ることと思われる。

 「一般的に、金融機関は、「短期調達・長期運用」を基本構造としているほか、調達の主な手段である預金金利がマイナスとなりにくいため、イールドカーブ全体にわたって金利水準が低下したり、短期金利と長期金利の差が小さくなることは、預貸金利鞘の縮小をもたらし、収益にマイナスの影響を及ぼします。」

 「マイナス金利導入後、長期金利や超長期金利の水準が大幅に低下していますが、こうしたもとで、保険や年金の運用利回りの低下が見込まれており、貯蓄性の商品の一部で販売停止などの動きがみられています。」

 マイナス金利の弊害として金融機関の収益への悪影響、資産運用に国債金利のマイナス化が悪影響を与えていること、そして総裁は触れていなかったが債券市場の流動性のさらなる低下要因となっていたことも挙げられる。

 「マイナス金利付き量的・質的金融緩和を推進していくに当たっては、その強力なイールドカーブへの影響力と、一方で広い意味での金融仲介機能への影響を踏まえながら、判断していく必要があると思います。」

 ここが今回の検証の胆にあたる部分ではないかと考えられる。これについては総裁の講演を前にして突然出てきた櫻井日銀審議委員のロイターとの単独インタビューでもう少し具体的に説明がなされていた。そもそも櫻井氏は今年4月に日銀審議委員に就任したばかりで、メディアのインタビューに応じるのは今回が初めてだそうである。その櫻井委員から出たコメントが意外なものであったのである。

 「イールドカーブの形状をどう変えていくかも、可能性としては政策の選択肢に入る。検証作業の中でいろいろな議論が出てくるだろう。イールドカーブが予想を超えて下がったのは事実である。それによって効果はあったが、いろいろなコストも出てきた。それも踏まえて今後の政策の組み合わせを考えていきたい」(ロイター)

 たしかに日銀は特にマイナス金利政策の導入により、予想以上に国債利回りが低下していたことは認めており、これはむしろ成果のひとつとしていた。ところが、これは行き過ぎであり、これを検証するとともに、利回り曲線の形状を変化させる、つまりこの場合は一部の国債利回りを引き上げることが総括により出てきた解答のひとつと見る事ができるのではなかろうか。

 超長期債と呼ばれる20年を超える期間の国債利回りは7月6日に20年債がマイナス0.005%をつけた後、ここがいわば高値(利回りとしてき最低)となり、じりじりと利回りが上昇していた。その上昇ピッチがここにきて顕著となっていた。その要因として、日銀の総括によって超長期国債の買い入れが減額されるのではとの観測があった。市場はある程度、日銀がイールドカーブの修正を図っているのではないかとの見方も持っていた可能性がある。

 それではなぜ日銀が長い金利を上昇させたいのであろうか。正確には低下し過ぎた金利を何故修正したいのか、その目的も自ずと浮かび上がる。

 日銀のマイナス金利政策で不評となっていたのは何か。ひとつは利ざやの縮小による金融機関への収益への悪影響である。これを手っ取り早く解決する手段はイールドカーブのスティープ化となる。つまり超長期の金利を上げることである程度解消される可能性がある。

 足元の金利、つまり短いところのマイナス化についてはそのまま放置するか、もしくはいろいろとセーフティーネットをつけた上でのマイナスの深掘りをすることでイールドカーブをさらにスティープ化させることも想定しているのかもしれない。

 国債利回りのマイナスにより資産運用に大きな支障が出ていた。MMFの償還などがその大きな事例となっていたが、それも多少なり解消させることも意図していている可能性がある。加えて10年債利回りあたりがマイナスからプラスに転じることになれば、そこにあらためて投資家需要も見えてくることになり、国債市場の流動性が回復する期待も出てこよう。

 黒田総裁は9月5日の講演の最後に次のような発言もしていた。

 「例えば国債の引き受けや財政ファイナンスのように、「法律的にできない」あるいは「やるべきではない」という意味での限界は存在します。しかし、先程述べたとおり、例えば、今の枠組みの中だけで考えても、「量」・「質」・「金利」の各次元での拡大は、まだ十分可能だと考えていますし、それ以外のアイデアも議論の俎上からはずすべきではありません。」

 それではこの総括的な検証を受けて、日銀はどのような軌道修正を図り、追加緩和手段としては何が想定できるのかを考えてみたい。

 軌道修正の柱となりそうなのが国債のイールドカーブのスティープ化であろうと考えられる。スティープ化には足元金利のさらなる引き下げも選択肢に入る。金融機関の収益に悪影響がでないようにセーフティーネットも構築した上での、マイナス金利の深掘りは選択肢として残る。量については超長期について微修正を行う可能性があるが、全体の量の変化はなくフレキシブルな国債買入に修正し、見た目では量が増えているかのような工夫を凝らす可能性がある。

 それ以外のアイデアとしては、日銀が金融機関に資金を供給する貸出支援基金にマイナス金利を適用することや、外債購入なども選択肢に入るかもしれないが、いずれもあまり現実的ではない。貸出支援基金にマイナス金利を適用すると金融機関も貸し出し金利のマイナス化が要求される懸念がある。外債購入は為替操作と認識されるとそれは財務省の管轄であるとともに、米国からの批判を受けることも目に見えている。

 このように今回の検証で日銀は、少しでも追加緩和余地を拡げようとするかもしれないが、むしろ量・質・金利ともに限界が近いことを示すことになる可能性もありうる。債券市場ではイールドカーブの修正は好感するとみられるが、それはつまり債券相場の調整も意味することで、金融機関は運用益の減少となる懸念がある。

 為替市場や株式市場がどのような反応を示すのかは予想しづらいが、強力な追加緩和の可能性は想定できない以上、日銀の追加緩和期待での円安・株高はあまり期待できないのではなかろうか。これはECBも同様であり、結果として日銀やECBの追加緩和の行方より、FRBの正常化の行方の方が市場における焦点になりやすいように思われる。

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# by nihonkokusai | 2016-09-16 15:02 | 日銀 | Trackback | Comments(0)

債券先物の建玉が映し出す国債の流動性低下

 大阪取引所に上場している長期国債先物(以下、債券先物)は3月限、6月限、9月限、12月限があり、9月の限月の取引最終日は9月12日となった。なぜこのような限月といったシステムにしたのかといえば、金融先物の元祖と言うべき江戸時代の大坂堂島での米の先物がそのようなシステムとなっていたからである。それはさておき債券先物は中心限月に売買が集中しており、取引最終日までに中心限月が今回で言えば9月限から12月限に移行する。

 実際の中心限月移行の認定はナイトセッション含めた約定日の期先出来高が期近の出来高を逆転したその翌営業日であるが、それもさておいて現場では売買高が逆転した瞬間に中心限月が移行したと認定される。過去再逆転したケースは私の記憶の上ではたぶんなかったはずである。

 今回実質的に中心限月が9月限から12月限に移行したのは9月9日であった。この日新しく中心限月となった12月限の建玉に異変が起きていた。中心限月が交代したばかりは当然ながら建玉はそれほど多くない。それでも限月間スプレッド取引を利用した、いわゆるロールオーバーによって9月限の建玉が12月限に移行されるため、ある程度の建玉が存在する。ところが9月9日の債券先物の建玉がわずか5兆円台しかなかったのである。

 過去の手元のデータで実質的な中心限月のあった日の建玉を確認してみた(手元の数字は速報ベースなので確報ペースと多少誤差がある)。すると2012年末のいわゆるアベノミクスの登場から2013年4月の異次元緩和も登場時あたりは8兆円規模あり、その後それが10兆円近くまで増加していた。ところが、今年3月あたりからその建玉が減少し始め、今回の5兆円台にまで低下してしまったのである。

 これは当然ながら債券先物を取引している参加者が減ったことを意味しよう。特に今年3月から顕著になったということは今年1月に決定し2月から施行された日銀のマイナス金利による影響が大きかったとみて間違いはないのではなかろうか。これは日銀のマイナス金利政策の導入により、国債市場の流動性が落ち込んでいたことを示す。

 21日に公表される日銀の総括的な検証では、この債券市場の流動性の低下も意識されたものになると予想される。そのための手段として国債のイールドカーブのスティープニングが意識された可能性がある。しかし、足元金利についてはマイナス金利を深掘りすることも予想されており、これにより中期債の利回りが低下している。する債券先物は残存7年の国債に連動する。このため多少イールドカーブがスティープ化しようとも中期ゾーンに引っ張られる格好で7年ゾーンは上昇しづらくなる。

 もし国債市場の流動性を向上させたいのであれば、10年債利回りは当然ながら、7年ゾーンあたりまでの利回りをプラスに引き上げる必要もあるのではなかろうか。そうでなければ国債の流動性に大きな役割を果たしている債券先物市場の流動性が今後さらに低下してしまう懸念もあるのではなかろうか。

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# by nihonkokusai | 2016-09-16 09:38 | 債券市場 | Trackback | Comments(0)
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